
屋根裏部屋風の2階は総畳敷き。庭と建物の境界を感じさせない「繋がる家」
見た目はもちろん、長く暮らしていくうえで快適な住環境づくりを実現するため、図面を詳細に至るまで検討し、熱の動きや空気の流れまでを設計することに努めているという「ELEPHANT DESIGN」の門脇さん。周囲の環境に溶け込むデザイン、可能な限り既製品を使わずに、その1軒の建物のためだけにデザインするという姿勢が、家づくりの常識の枠を超えた、Y様邸のような住まい空間を生み出すのだ。
庭との繋がりを大切にした、フレキシブルな空間設計
昔の日本家屋に多く見られる南面が横に広く伸びるY様邸は、ほぼ中央にインナーテラスがあり、建物内と庭との境界を感じさせない。インナーテラスと庭の間に戸はなく、暖簾とカーテンが付いているのみ。さらに、採光性に配慮したリビングの窓は、ガラス面を大きくし、その向こうに広がる緑の庭が室内の延長線上にあるように感じさせる。インナーテラスと繋がる空間も、一風変わっている。階段下のホールにあたる部分なのだが、設えは応接間か、書斎か、セカンドリビングか。置かれる家具によって、どんな使い方も可能な空間になっている。「気が付いたら、家具の位置をよく変えているんです」と奥様が言うように、家具好きなY様。いつでも好きなように家具を配置できるように、「余白」ともいえる大らかな空間を多く設けたのも門脇さんのアイデアだ。大きなガラス窓はホールの横のLDK、ホールの先の玄関ドアにも使用され、限りなく仕切りのない感覚を演出。Y様のオーダーが、普通の家には当然のごとくある仕切りをなるべく排除し、「ハコだけ作ってもらえれば」というものだったため。ただ、「さすがに、それだと生活が苛酷になりすぎるので、ある程度の仕切りは設けつつ、フレキシブルな空間設計にすることで要望に応えました」と門脇さん。
通常、家の中でくつろぐ場所と言えば、リビングのソファなど「この場所」と決まっているものの、T様邸にはその時の気分やシチュエーションによって、異なる「くつろぎの場」がいくつもある。例えれば、レストラン&バーやカフェのよう。また、玄関を入って、靴を脱ぐ場所から、一歩入ると段差が低くなっている。ここも通常の家であれば、上がり框になっているはず。さらに、ホール横の階段から2階へ上がると、そこは勾配天井をそのまま生かした屋根裏部屋のような空間が広がる。この2階フロアは総畳敷きで、何とも足ざわりがよく居心地の良い空気感が漂っている。家族のプライベートスペースである。金属屋根をめくったような越屋根の窓が設けられ、明るい日差しが注ぎ込まれて、暖まった空気を抜くのにもひと役買っている。Y様邸は、家中のあらゆる部分が「普通」の家とは違う設計で、まさに世界に一つだけの家なのだ。
自然のままの素材、手作業、不均質…、それが味わいになる
窓枠も木製で、既製品ではなく独自にあつらえたもの。テラスに向かうサッシは建物のデザインをするうえで肝となる部分だが、一般的に使用されるアルミサッシでなく、あえて木製建具を採用したことで、庭との繋がりが自然に感じられる。自然、庭、周囲の緑にとけこむ木製建具だが、熱損失にならないように、細部の納まりをミリ単位まで詰めて図面化することで気密性を計算したため、「すきま風とかは全然なくて、過ごしやすいですよ」と奥様。
外観においても、杉板に柿渋と松煙の入った塗料で外壁を黒く塗装して、ノスタルジックな風合いに仕上げている。庇の長さや開口部の位置を細かく検討することで、可能な限り雨掛かりを防ぐ。雨樋はあえて作らず、大屋根にはガルバリウム鋼板の波板で葺いているため、屋根を伝って雨が落ちてくるが、深い庇は1mも出ているため、雨水は庇の先から真下の地面まで一直線に落ち、建物自体にはかからないという。「家の中から見ていると、まるで滝のような雨水のカーテンが、実はすごくキレイなんです。特にどしゃぶりの雨の日はいいですよ」と奥様。日常生活において、多くの人が億劫に感じる「雨」さえ、暮らしのアクセントの一つとして楽しんでいる。休日のみならず、Y様は庭仕事にいそしんだり、照明やちょっとした棚を手作りしたり。Y様邸は、毎日の生活自体に多彩な楽しみがあふれている住まいなのだ。
間取り図
お家のデータ
所在地:岐阜県各務原市
家族構成:夫婦+子供1人
敷地面積:500㎡
延床面積:110.29㎡
予 算:2000万円台